築100年を越す茅葺屋根の家は北村さんの生家。数年前に一人暮らしをしていたお母様が亡くなった後も、徳島市内から月に2度ほど住まいの手入れに来ていました。そのため大きな修繕をすることなく、スムーズに賃貸に出すことができました。はじめは県外から研修に来ていた5人の女性のシェアハウスとして5ヶ月間の短期賃貸契約を締結。その後、研修を終えて町内のサテライトオフィスで働きはじめた澤田さんと2年間の賃貸契約を結び直し、母屋に置いていた仏壇は別棟に移動しました。「将来的には畑も一緒に購入してくれる人に譲りたい」と北村さん。売却も視野に入れつつ、貸しながら一緒に管理することで家を良い状態に保つことができています。

小坂田達さんと美香さんご夫婦は二人とも県外の出身。上分に住む達さんの祖父母の家を初めて訪れた際、自然が豊かな神山の環境に強く惹かれ、移住を決意。徳島市内で仕事をみつけた美香さんのため、はじめは市内への通勤がしやすい広野に住居を借りました。その後、「もっとおじいちゃん、おばあちゃんの近くで暮らしたい」と現在の上分の住まいへ引越し、移住支援の補助金を使って水廻りや居住部分をリフォームしました。「これから少しずつ自分たちの手をかけて住まいを育てていきたい」と、ご夫妻。まもなく生まれるお子さんとの3人暮らしがはじまります。また、敷地内のお墓にお参りに時々訪れる家主さんとも良好な関係を築いています。

阿川の松尾地区で約40年ぶりに赤ちゃんが生まれました。赤ちゃんのご両親は島浦徹さんと舞さん。「地域の人が温かく見守ってくれるので初めての子育ても心強い」と舞さんは言います。徹さんは関東出身で、奥さんの故郷である徳島市内にIターン。そこを足がかりに、神山で暮らすための仕事や人脈などを築いていきました。日当たりの良い南向きの斜面に建つ畑付きの住居を、一目見て気に入り、ここへの移住を決意。納屋にあった耕運機などの農機具も一式借りて、お勤めの傍ら農業も始めました。地区の世話役の方が在所について丁寧に教えてくれたので、生活用水として必須の山水の管理作業にも、地域の方と協力しながら楽しく参加できています。

かつて大阪でweb制作会社を営んでいた廣瀬圭治さんは神山にサテライトオフィスをつくることを決意。はじめは週末ごとに大阪から通って自らの手で母屋を改修し、家族で住める環境を整えました。家族で移住後、床が腐って傷みが激しかった離れの1階部分をオフィスに改修。「自分の好きな空間を作ることができるのは楽しい」と話す廣瀬さん。その後は本社を神山に移し、軒下にお店を増築したり、お子さんの成長に合わせて離れの2階を子供部屋に改修するなど、ライフステージに合わせて古い建物を住みこなしています。構造や設備はプロに任せつつ、床張りや塗装などの仕上げを会社のスタッフと行うことで、上手に空間作りを楽しんでいます。

寄井商店街に面する築150年の酒蔵とその居住部分をリノベーションしたレストランと宿泊施設には、県外はもとより海外からも多くの人が訪れ、神山の人と外の人の交流の場にもなっています。東京のIT企業で長く働いていたオーナーの齊藤郁子さんは、「いつか質の高い、豊かな暮らしをしたい」と思っていたそうです。井戸や畑があって、立派な材木で建てられたこの場所にとても魅力を感じ、土地と建物の購入を決意。長らく空き家になっていた建物は傷みもひどく、天井や床をはがして初めて気づく傷みが多くあり、工事をはじめてから完成まで1年半かかりました。齊藤さんは「受け継いだこの建物を、次の100年へつないでいきたい」と話します。

鬼籠野すみはじめ住宅「西分の家」は、地域に眠っている空き家を、もう100年住み継げる町の社会資本として再生させるために、神山町と神山つなぐ公社が改修しました。約60年前に神山の大工が建てた大きな家屋は、長い間人が住んでいなかったため床や天井が抜け朽ちかけていました。民家の改修を得意とする建築家と協働しながら、地元の若い大工を中心とした工務メンバーが改修を担当。今は神山に移住を考えている単身者や家族が住むシェアハウスとして活用されています。また１階の広間とキッチンは、まちの人も借りることができる空間に。新しい出会いや、活動のきっかけが生まれる場所になることを期待しています。