「神山での子育て」当事者インタビュー
神山町で子育で教育に関わる人たちにインタビュー
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地域での体験は宝もの。神領小学校
「神山で育つ、神山で育てる。」当事者インタビュー
神領小学校
「まち全体で子どもを育んでいく神山」という言葉は、まちの小学校2校の現場にもしっくりきます。特に「体験学習」を巡って2校の特徴は、それぞれ際立っているようです。
まずは神領小学校(令和5年度児童数92名)の様子から覗いてみましょう。海老名正規校長、武市由美先生、前川直哉先生、 伊月沙織先生に伺いました。
まずは、自己紹介をお願いしてもいいですか。
海老名:校長であり、神領小の卒業生でもあります。30年前、教員になって一番最初の勤務先も神領小でした。その後は、神山中学校や県の教育委員会での勤務などを経て、令和5年度から神領小に戻ってきました。久しぶりの小学校なので新しい発見もいっぱいですね。
武市:中規模校もあれば複式学級もある色々な学校を経験して、7校目。1年生の担任です。今年、神領小は10年目ですから、ここへの想いは強いです。私は町外から来ていますが、神山は本当に恵まれていると感じています。
前川:教員になって6年目。最初は全校生徒約900人の県内1・2の大規模校から、2校目の神領小学校へ来ました。6年生を担任しています。
伊月:大阪の大学に行っていたので、そのまま大阪市で2校勤務しました。その後、徳島県の教員採用試験を受け直して、大きめの学校に3年、勤務して、神領小はこの4月から。2年生の担任です。
神山町は年々、移り住んでくる家庭が増えており、まちの様子も変化を続けています。先生方はどう感じておられますか。
武市:10年前と同じところも変わったところもありますね。でも、神山町、神領小自体が「地域に深く根づいた教育ができる町」という点では変わりがないと感じています。おじいちゃん、おばあちゃんが地域にいて、孫世代の学校を見守っている。今までの神山町、神領小の良さがあって、そこにプラスして外からの新しい風もミックスされた地域だなと思っています。
地域に根付いた教育と、新しい風のミックスというのはどんな変化になるでしょうか。
例えば、授業の中で子どもたちの中から「先生、こんなん、やりたい」と言われることがありますよね。長く教員をしていますが、今までは「やれるといいなぁ」と思うだけで終わることも多かったんです。でも、「神山つなぐ公社」(※1)や「NPO法人まちの食農教育」(※2)のみなさんに「生活科でこんなのやりたいんやけど」と相談できるんですね。コーディネーターみたいな感じで、地域の方とつないでくださって、子どもたちがやりたいことが実現できて、体験で、学ぶことができるんです。
1年生で言うと、生活科の授業として鉢の中でトマトやアサガオを育てることを体験します。一般的には観察して終わりです。神領小では、畑に行って野菜を育てて、それを出荷して自分で食べるというところまでできるんです。
伊月:2年生では「まちたんけん(探検)」や、季節の変化を調べたり、身近な生き物に触れたりする単元があります。私は神山で育っていないので、鮎喰川のことを子どもたちと学ぼうと思っても、まず自分が調べ、知るところから始めないといけません。さらに子どもの学びにどうつなげるかを考えないといけない。時間もかかるし、私が伝えられることも「調べたこと」に留まるんです。でも、つなぐ公社さんに相談したら、すぐに「じゃあ、1か月後やってみましょう」みたいな感じで、地元の川に詳しい方へつないでくださった。川をよく知っている人が一緒に学びの場を作ってくださると、教員だけが伝える授業の何倍もすてきな学びになります。やっぱり現場を知っている方から話を聞くのと、私たちが伝えるのでは全然違う。思いを形にしてくださって、神山の皆さんの温かさがぎゅっと詰まった、生きた体験学習が叶いました。
つなぐ公社やNPOまちの食農教育のコーディネートが多いんでしょうか。
武市:地域の人同士でつないでくださることもあります。去年はアサガオの栽培を地元農家の白桃さんにお願いしていたんです。そしたら白桃さんが、「僕が教えるよりも、やっぱり花のプロが絶対いいから」とおっしゃって、河野さんにつないでくださった。河野さんは花の栽培のプロで、お花用に作っている土まで提供してくださったんです。去年と同じ種なんですが、今年、子どもたちが咲かせたアサガオの花は数も多くて花びらも大きかったんです。
プロから教わるアサガオ栽培とは、贅沢な授業ですね。地域のみなさんも、子どもにより良い学びをさせてあげたいとかなり熱心ですね。学校の体験授業を支えるのは大変そうにも思えますが、どうしてつながりが広がっていくんでしょう。
海老名:神山の人は、地域の人たちが学校と一緒に何かをすることを楽しんでくれています。私が神領小に帰ってきて一番感じることです。町のみんなで子どもを育てるという空気の中に、学校があるんです。
地域の人は、学校のことを手伝ってくれているのに「自分たちも楽しんでやっているんです」というスタンスの方が多い。これが、長続きしている秘訣やと私は思うんです。
先日も、伊月先生の担任する2年生が、焼山寺にお遍路さんのお接待に行ったんです。お世話をしてくれた民生委員の松浦さんからは「子どもと一緒のお接待は、民生委員としてもやってよかったと思っています」とおっしゃっていただきました。
体験学習が多いから、周りの人たちが慣れているんですね。訪問回数が多いということは、行く場所の人たちも経験値が高くなっていると感じます。
先生方がおっしゃるとおり、町内には子どもを見守る温かい環境があると思います。役場が体験学習を受け入れる際は、職員も「よっしゃ、やるぞ。これは本気でいかないかん」と一般の視察に負けず劣らず力を入れて腕まくりすると伺いました(神領小学校まちなか探検in神山町役場/かみやまch.048)。校外学習、体験学習は、子どもにどんな影響を与えるでしょうか。
武市:「経験する」ということが何よりも子どもたちにとって大切になるんです。その中で食への意識が生まれたり、故郷への思いが深まったりしていく。未来にもつながる意識も育てられる。色々な職場や大人に出会うので、キャリア教育にも繋がりますね。今、子どもたちが経験していることは子ども達にとっても大きなことだと思っています。
校外学習の訪問先が近いと歩いていくんですが、地域のいろんな人が、声をかけてくださったり、手を振ってくださったりします。中学生も手を振ってくれたり。
それから、川遊びで体験した、水の冷たさ、川の匂いは記憶に残るでしょう。稲を刈った時や、野菜を抜いた時の匂いも。大きくなっても「あ、これってどっかで匂ったことがある」と思い出すんですよね。
海老名:神山をフィールドにした体験をすれば、「神山はいいところがいっぱいあるんやな」と思えるようになる。子どもたちが地域の色々な人の話を聞くのは、ふるさとを知る点でも、自分のことを好きになるという点でも大事になってくると思ってます。
学年や季節によりますが月に何度も何度も校外へ出る時もあります。率直に伺いますが頻繁に行って、授業時間数は大丈夫なのでしょうか。
海老名:校外学習に出かける回数は多いけど、かけている授業数はそんなに多くないですね。フィールドが近くにあるから移動距離が短いんです。
前川:大規模校だと半日がかり。年1回の遠足と合わせてしまうところもあります。神領小は生徒数が少ないので、引率教員も少ないから機動力があるんですよね。上の学年になると1時間で行けることもあります。一緒に行く先生もまちに詳しい人も多いですから。
武市:低学年も、朝の1時間目と2時間目の2コマで帰ってこられるんですよ。ちゃんと充実した活動を終えて帰ってきても、たった2時間。
子どもの数の少なさが、かえってメリットになっていますね。
武市:神領小学校の職員も、92人の児童みんなの担任みたいな空気はありますね。もちろん各学年の担任を持ってはいますが。「今日、○○ちゃん、こうやったけんな」「あの子はこうやった」と子どもの変化を教員みんなで共有できているというのが神領小学校かなというふうに思います。
前川:人数が少ないとクラスの横の関係が固定化されがちと言われますが、神領小は縦のつながりがすごく深いので、固定化はあまり気にならないのかもしれません。ほぼ全校児童がお互いの名前だけでなく個性も分かっている。素直で温かい子、優しい子が多いというのは感じますね。
少し話題は変わりますが、「医療費・保育料・給食費3つの無償化」など神山町の手厚い子育て支援策について、学校現場でも気づくことはありますか。
前川:神山町では、子どもの教材購入の助成(※3)もありがたいです。ドリルやプリントの教材は、あまり値段に左右されず、より内容の良いものを購入できます。プリントも白黒よりは、子どものやる気が出るカラーのものを買えます。
給食費も無償だから、集金事務がほとんどない。体験学習で使うバス代も、町が予算を組んでくれています。教員の事務の負担を減らしてくれているなと感じます。
武市:そうだね。これは大きいと思う。
海老名:神山町が子どもにお金をかけるというのは伝統ですね。戦後すぐでも、神領の中学校には顕微鏡が20台ぐらいあったと聞いています。
保護者への負担軽減は、先生方への負担軽減でもあるんですね。そこまで恵まれた環境だと言うことは、あまり知られていませんね。
前川:はい。神領小に来て初めて、神山町が教育に手厚いということを初めて知りました。赴任する前に仲間の先生からは「すごいいっぱい学べる場所やけん、学んで来いよ」と何人にも言われましたが、来てみて本当にそうだと思いました。
武市:こうしてみると神山町では「ひと」と「こと」と「もの」が全部そろっていて、それがうまく回っているのかなと思います。「ひと」というのは地域の方も、子どもも、学校の教員も含めて。「こと」というのは制度的なものというのがあって、それを支えてくださっているのが教育委員会や役場かな。「もの」については、神山には、宝物がいっぱいある。すべてそろっているのが神山町であり、神領小学校なのかなと思います。全体がウィン・ウィンの関係というか、高め合っているというのが今の神領小学校なのかなと。
海老名:武市先生が今、話してくれた「ひと」「こと」「もの」が全部そろっていることが、集約して形として表れているのが「体験学習」ということやね。人のつながりがあるから体験学習ができている。先生を支える制度があって、自然や事業所といったフィールドが近いから頻繁にできるということやね。
私もここで育っているから分かるんやけど、中学卒業後、自分のコミュニティは急激に広がっていく。その時には、「たくましさ」が必要になってくる。どこに住んでいても、たくましく生きていける力を育てることが、神領小などへき地の教育で大事なこと。だから、地域の色々な人が子どもの成長に関わっていくということは、大事なことだと思っています。
神山町の保育・教育環境を図解した「まち全体で子どもを育てていく神山」の図。神領小での当インタビューをはじめ、町内各所の現場の先生や保護者のみなさんのお話も元になって作り上げられました。
先生方から「体験学習」が神領小学校の文化を表象しているというお話が出てきました。このインタビューの他、地域の保育・教育に携わる先生や保護者のみなさん、役場や神山つなぐ公社の思いなどを合わせ、話し合いの末、上記の図が生まれていきました。
さて次回は、より人数の少ない広野小学校です。広野小学校も体験からの学びが豊かな学校。「農」と「食」が自然と校内にあるようです。
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